雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

風の強い日が苦手な理由。

風が強い日は苦手。 せっかくまとめた髪の毛がすぐに乱れる。 お気に入りの服はしわになったり汚れたり。 歩いても自転車に乗っても、大体向かい風。 まだひんやりする風が強ければ強いほど、私の行く手を阻む。 目の前のことだけに必死になって、前から吹い…

落とし物、道端、その前後。

道を歩いているといろんな落とし物がある。 靴が片方だけ落ちている。 左足だけ。 こんなものは日常の風景。 そして、思う。 もう片方の靴はどうするのだろう、と。 右足だけ残ってどうするのだろう、と。 同じ物を買ったとして。 結局、左足はひとつ余る。 …

説教、不可避、雨の声。

雨が止まない。 傘を持っていないから濡れてばかり。 どうして傘を持っていないの? 誰かに怒られた気がした。 まわりを見ても誰とも目が合わないのに。 声だけがする。 幻聴か。 怒られすぎて、落ち込みすぎて。 上司に怒られた。 死ぬほど怒られた。 彼女…

道路、舗装、何時か誰か。

私が歩いている道は。 誰かが綺麗にしてくれている。 誰かがデコボコなことに気づいてくれて。 誰かが声を上げてくれて。 私の知らないところで。 知っているくせに知らないフリをして。 工事があちこちで行われている。 大変だね。 そう思えたらいいのに。 …

雨降り、傘さし、ハローグッバイ。

雨降り日は世界が狭くなる。 海が広がって狭くなる。 空が低くなって狭くなる。 みんな傘をさして狭くなる。 歩くスピードも車の速度もゆっくり。 傘がぶつからないように。 事故が起こらないように。 だから。 きっと。 雨降り日は、みんなやさしくなるんだ…

夜道、歩く、選び方。

暗がりを歩く。 なるべく明るいところを選びながら。 街灯のある道を。 その方がいいよ、って誰かが言っていたから。 その方が安心だよ、って誰かが言っていたから。 ほとんどの人がそう言うから。 私は街灯のある道を選んで歩く。 誰かが作った街灯の下。 …

お気に入りの靴を履くタイミング。

お気に入りの靴を履いて出かけよう。 そう決めたのに。 玄関を開けたら雨が降っていた。 天気予報では降らないって言っていたのに。 雨音にも気づかないなんて。 どれだけ浮かれていたのか。 あなたの顔を思い浮かべる。 思い浮かべたら、浮かれていた。 隣…

いつか雨はやむけど今やんでほしい。

雨が降るたび寒くなる。 ただでさえ、寒くなってきたのに。 家を出てすぐに、雨が降ってきた。 傘は持っていない。 曇ってはいたけれど、降りそうにはなかったのに。 なにも当てにはできない。 私の勘なんて、そんなもの。 買ったばかりの薄手のコートなんて…

信じてないけど信じたい話。

流れ星に願い事を3回言うと願いが叶う。 そんな話、誰もが知っている。 でも誰もが、信じていない。 ほら。 誰も星なんて見ていない。 こんな明るい夜空に、星なんて数えるくらい。 夜空よりも星よりも明るいものに誰もが夢中。 願い事がそこにはないことを…

いつもと違う姿に惹かれ見つめる。

こっちからすれば本番前。 まだまだ準備中。 本番前にちらりと顔見世。 なんだか、裏側覗いているみたいで気持ちが昂る。 今からが本番。 夜の帳が下りてからがあなたの出番。 帳が下りてからが本番だなんて。 なんだか滑稽。 夜になったらカーテン閉めるの…

ヘクトパスカル、って早口で言えると気持ちいい。

毎週、台風来るね。 娘がテレビを観ながら言う。 今回のはデカそうだな。 父が娘の隣に座る。 910ヘクトパスカルだって。 昔は、ヘクトパスカル、っていう単位じゃなかったのにな。 そうなの? ああ。たしか、ミリバール、だった気がする。 なにが違うの? …

この世の7割は水でできている。

一生懸命に泳ぐ。 波をかき分け。 必死に泳ぐ。 泳ぐのは苦手だけど。 笑いながら。 どんなに苦しくても。 押す波も寄る波も。 身を委ねるだけではダメ。 それじゃあ、ダメなんだ。 何度もこれだと思った。 何度も勘違いだったと気づいた。 一生懸命に泳ぐ。…

立ち位置はいつでも気になる。

もう夏も終わりだね。 リエは空を見上げる。 そう?まだまだ暑いよ。 タクマは額にかいた汗をぬぐう。 本当に汗っかきだね。 仕方がないだろ。 ほら、肌に当たる陽射しの強さが違うでしょ? 大して変わらないよ。 全然違うよ! まあ、厳密に言えば、毎日違う…

影を探すことは光を探すこと。

影の長さは私のライフゲージ。 朝は長く伸びてやる気に満ち溢れている。 何色にも染まっていないこれからの時間を、私が染めていく。 なのに。 時間が経つにつれて、ライフゲージはなくなっていく。 あんなに長かったのに、どんどん短くなっていく。 理由は…

海は急に深くなる。

酒は飲んでも飲まれるな。 そんなことを真顔で言う人は、きっと本当の恋をしたことがないのね。 君はお酒を飲みながらそんなことを言う。 どれだけ飲んだらダメになるか。 どれだけ依存したらダメになるか。 どれだけ想っても届かないものもある。 そんな経…

町が少しだけ明るくなるとき。

きれいな花が咲く。 色も形もそれぞれ。 少しだけ、世の中が明るくなった気がする。 いつもは、晴れ時々雨。 でもこの時期は、雨時々晴れ。 みんな一斉に感謝する。 お日様のありがたみを、この時期は。 もう少ししたら、また、お日様をうらめしく思うのに。…

雨上がりは獣の匂い。

雨が降ると憂鬱になる。 雨は悪くないのに。 悪いのは自分。 そんなことはわかっている。 しばらく降り続いた雨がようやく止んだ。 それでも雨は止んだが、灰色の雲に覆われたままでいつまた降り出してもおかしくない。 雨の匂いは残ったまま。 カズキの憂鬱…

此処と其処の境目。

ここは日向。 お日様の恵みにからだポカポカ。 そこは日陰。 風が少しだけひんやりからだを通り抜ける。 一歩踏み出すだけで、日向と日陰を行ったり来たり。 長袖シャツをまくったり、おろしたり。 日向でおでこにかいた汗は、日陰で風が吹き抜けるたびに乾…

何を作っているのでしょうか?

煙突から白い煙がモクモク。 その先には空が広がっていて、大きくて白い雲がある。 遠くから見ると、煙突の先と雲がつながっている。 まるで雲を作っているみたいに。 モクモク、モクモク。 煙は絶えることなく出続ける。 雲はどんどん大きくなる。 白かった…

行くも戻るもいつも自由。

分かれ道に出た。 右は平坦な道。 左は急な上り坂。 どっちを選ぼう。 どっちに行きたいのか。 上り坂は疲れそうだから平坦な道を選ぶ。 しばらく歩く。 平坦な道を。 何もない。 所々にきれいな花が咲いているだけ。 たくさんの人をすれ違うだけ。 上り坂は…

星座にまつわる神話は独特。

死んだら星になりたい。 なんて、ロマンティックなことは言えない。 でも考えてみたことはある。 なぜ星になりたいのか。 きっと寂しいからだ。 あなたと離ればなれになってしまうから、何か繋がりがほしいんだ。 星になったらどうなるのだろう。 ちょっとだ…

明かりの下には影がある。

川の向こう側に広がる空がとても綺麗で。 川の向こう側を照らす明かりがとても綺麗で。 どうしてこっちはそうでもないのかと不思議に思う。 向こうとこっちはそれほど離れていないのに。 助手席に乗る知人が言う。 「そんなものはただの幻想だわ」 幻想なん…

どこで咲いても花は花。

道を歩いていたら、小さな花が咲いていた。 アスファルトのはしっこに白い花が。 ひび割れたアスファルトの隙間から、一輪の花が咲いていた。 私はこの小さく美しい花の名前を知らない。 アスファルトの隙間を縫うように咲いたのか。 アスファルトを突き破っ…

いつも向かい風、時々追い風。

今日は風が強い。 冷たさを多分に含んだ風が襲ってくる。 からだを硬直させて風が止むのを待っていたら、視界のはしっこで何かが動いた。 その正体は、ビニール袋、だった。 コンビニのビニール袋。 弁当を買ったときに入れてくれる、茶色いビニール袋。 強…

見えないものを見る力。

月が見えるころに家を出て、月が見えるころに家へと帰る。 頑張っていると錯覚する。 月はいつだってあそこにいるのに。 見えない時間があるだけで、いつだってあそこにいるのに。 見えているか見えていないかの違い。 ただそれだけ。 厳密に言えば、昼でも…