海は急に深くなる。
酒は飲んでも飲まれるな。
そんなことを真顔で言う人は、きっと本当の恋をしたことがないのね。
君はお酒を飲みながらそんなことを言う。
どれだけ飲んだらダメになるか。
どれだけ依存したらダメになるか。
どれだけ想っても届かないものもある。
そんな経験しないと、わからないことだらけ。
君はそう言いながら、グラスを空にする。
だから、わかるまで飲まなきゃダメなのよ。
頬どころか顔じゅう真っ赤にして君は言う。
君はそんな恋をしたことがあるのかい?
と、君に尋ねてみる。
私はねえ…。
君の言葉を遮るように、カラン、と氷が崩れる音がした。
それとほぼ同時に、新たなグラスが届けられる。
私はねえ…。
君は新たなグラスを手に持って続ける。
私はねえ…、そんな恋をいつかしてみたいから、こんなに飲んでるの。
君は笑う。
どこか満足げに。
どこか寂しそうに。
じゃあ、君はまだわからないんだ。酒も恋も。
そう。わからないから飲むの。でも飲んでも何もわからない。わかることと言えば、嫌悪感だけが残ることくらい。
でも、楽しいお酒もあるでしょ?
まあ、たまにね。たまのたまにくらい。飲みはじめはいつも楽しいんだけど、だんだん楽しくなくなるの。でも、飲んじゃうの。わからないことばかりだから。
君は笑う。
今度は確実に寂しそうに。
君はもう、本当はわかっているんだよ。だから今夜はこれくらいにしておこう。
そう言うと、君はテーブルの上に顔をうずめた。