お気に入りの靴を履くタイミング。
お気に入りの靴を履いて出かけよう。
そう決めたのに。
玄関を開けたら雨が降っていた。
天気予報では降らないって言っていたのに。
雨音にも気づかないなんて。
どれだけ浮かれていたのか。
あなたの顔を思い浮かべる。
思い浮かべたら、浮かれていた。
隣に立っているのは。
お気に入りの靴を履いた私。
一目惚れで買った靴。
せっかくこの日まで我慢したのに。
雨が止む気配はない。
この靴に合わせた洋服も買ったのに。
この日を楽しみにしていたのに。
玄関を閉じて、部屋へと戻る。
雨音はしっかりと聞こえる。
あの人の顔を思い浮かべる。
思い浮かべるのに、もう、浮かれない。
もう、浮かばない。
おろしたての靴を箱に戻す。
ゆっくり丁寧に、棚へ入れる。
こんな日じゃ、この靴も私も浮かばれない。
汚れても大丈夫な服に着替えて。
履き古したスニーカーを履く。
はあ。
大きく息を吐き出す。
玄関が重たい。
足が進まない。
思い浮かぶのは。
お気に入りの靴を履いた私。
あの人の顔は、もう浮かばない。
しばらくしてあの人が浮かんでも、もう浮かれない。
雨音はさらに大きくなった。