明かりの下には影がある。
川の向こう側に広がる空がとても綺麗で。
川の向こう側を照らす明かりがとても綺麗で。
どうしてこっちはそうでもないのかと不思議に思う。
向こうとこっちはそれほど離れていないのに。
助手席に乗る知人が言う。
「そんなものはただの幻想だわ」
幻想なんかではなく、現に向こうの空と明かりは綺麗だよ、と私は思ったが口にすることはなかった。
橋の上で渋滞に巻き込まれる。
停まっていると橋が揺れているのがわかる。
こっちは全然進まないのに、反対車線はスイスイ。
いつも同じような時間に通る道だから、信号が変わるタイミングや進み具合はわかっている。
でも今日はやたらと停まっている時間は長く、前方を埋めるテールランプの数は多い。
「事故でもあったのかな」
私がつぶやく。
「さあ、どうなんだろう」
知人は前を向いたまま言う。
知人の素っ気ない返事は、事故があったのかなかったのかも私の幻想だと言われているようだった。
綺麗に並んだ前方のテールランプが少しずつ崩れていく。
トラックは反対車線を通り過ぎるたび、車が揺れる。
車が動いているあいだはそれほど揺れを感じないのに、停まったままだとやたらとからだに響いてくる。
少しだけ進んで、すぐに停まる。
やはりいつもと違う。
やはり事故があったのだろうか。
そのうち答えはわかる。
川の向こうの空はすっかり闇に包まれている。
川の向こうの明かりはさらに綺麗に輝いている。
ただの幻想だわ。
知人の言葉を思い出す。
動く気配のない渋滞の中、私は背もたれに体重を乗せる。
向こうもこっちも暗闇に包まれ、いくつもの明かりに囲まれている。
向こうから見たら、こっちのテールランプの明かりは綺麗なのだろうか。
テールランプの中に埋もれている私は、そんな実感は微塵もないけれど。
反対車線は相変わらず順調に車が進んでいる。
こっちも少しずつ、動きはじめた。
いくら進んでも、どこにも事故はなかった。
車の量以外、いつもと変わらない景色が広がっている。
さらに進んで、さっき見ていた川の向こう側へとやってきた。
ただの幻想だわ。
知人の言葉を思い出し、助手席に座る知人へ目をやる。
知人は目を閉じ、寝ていた。
空は暗く薄く広がっていて、いくつかの明かりが私と知人を照らす。
こっちもあっちも。
時折やってくるハイビームに目を細め、ゆっくりと車を進めていく。