落とし物、道端、その前後。
道を歩いているといろんな落とし物がある。
靴が片方だけ落ちている。
左足だけ。
こんなものは日常の風景。
そして、思う。
もう片方の靴はどうするのだろう、と。
右足だけ残ってどうするのだろう、と。
同じ物を買ったとして。
結局、左足はひとつ余る。
庭やベランダ用に使うとして。
結局、右足しかない。
同じ物買って、同じように落としたらちょうどいいかもしれないけれど。
それには、今度は右足だけ落とす必要がある。
また左足だけ落とさないように気をつけないと。
やかんの蓋が落ちている。
落ちたときにけっこうな音がするだろうに。
車だったのかな?
蓋がないと大変だよ。
沸騰するのに時間かかるし。
その分、ガス代かかるし。
灯油ストーブの上に置いて、加湿器代わりとしてなら使えるかもね。
冬限定で。
鍵が落ちていた。
家の鍵がついている。
これは大変だ。
一人暮らしだったら、もっと大変。
ブランド物のキーケースについた家の鍵。
ほかにも車の鍵やよくわからない鍵がいくつか。
ブランド物が本物かどうかはわからないけれど。
大変だ。
もちろん、すぐに警察に届けたよ。
ポチ袋が落ちていた。
お年玉が入っていたんだろうね。
ずっと楽しみにしていたお年玉を貯めて、欲しかった物を買ったのだろう。
中身が入っていなければ、の話だけど。
さすがにまわりを確認する。
そういうつもりじゃないよ。
でも、もし、中身が入っていたら。
落とした人は悲しんでいるだろう。
ポチ袋を手に取る。
なんだか、厚みがある。
なにかが、入っている。
なんだかドキドキする。
もう一度、まわりを見渡す。
そういうつもりじゃないけれど。
ゆっくり開けて、中身を確認する。
中にはなにか入っている。
ドキドキする。
息を潜め、中身を取り出す。
出てきたのは、ポチ袋。
ポチ袋の中からポチ袋が出てきた。
中に入っていたポチ袋を開けると、またポチ袋。
マトリョーシカのように、次から次へと出てくる。
結局、お金は入っていなかった。
残念がってなんかないよ。
そういうつもりじゃなかったから。
ほっとしたよ。
ちゃんと買い物できたのだろう。
親がこっそり子供のお年玉を使っていない限り。
もしお金入っていたら、ドキドキが増すから。
残念がってなんかないよ。
もう一度言うけれど、そういうつもりじゃなかったから。
ポチ袋をまとめてクシャクシャに丸めて、近くのゴミ箱に投げ捨てた。