雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

寄り道がメインストリート。

朝起きたときには、あんなに今日は頑張ろうって思っていたのに。 仕事に行って帰るころには、もうそんな気力がなくなっている。 体力的なものなのか、精神的なものなのか。 なくなってはいないけれど、だいぶ減っている。 でも、少しだけ残っているから。 早…

いい子といい人。

いい子だね。 父は子を見て言う。 言うこと聞きなさい。 早くごはん食べなさい。 早く寝なさい。 約束守りなさい。 父の言うことを聞いた子に、父はいつも言う。 いい子だね。 子は布団へ向かう。 父から、早く寝なさい、と言われたから。 布団に入ってしば…

頑張っている人に頑張れなんて言えない。

後輩が会社を辞める。 前からわかっていたことだけど、とうとうこの日がやってきた。 実感ないんですよね。 君は言う。 私も同感だ。 毎日のように会って話していた君が、明日からいないのだ。 そんなのいつ感じるのか、わからない。 明日になったら感じるの…

はじまりと終わりの場所。

ちゃぷちゃぷ。 あったかいな。 ここはどこ? 私が誰なのかもわからない。 ただ、ひたすらに落ち着く。 ちゃぷちゃぷ。 あったかいな。 目の前にいるのは誰? それは、いつか、なんとなく知ること。 ちゃぷちゃぷ。 つめたいな。 長靴履いて、水たまり。 深…

生まれ変わるタイミング。

生まれ変わりたいほどに後悔する。 生まれ変わりたいほどに悲しむ。 生まれ変わりたいほどに無力を感じる。 何も変わらないのは承知で。 なんで私だけ…? いつだってそう思う。 生まれ変われたらいいのに。 いつだってそう思う。 生まれ変わりってあるのかな…

流した涙はすぐに乾く。

泣けないから。 泣いた方がいいって言われても。 泣けないんだからしょうがない。 辛いことを思い出しても。 悲しいことを思い出しても。 目頭は熱くなっても、涙がこぼれることはない。 最後に泣いた記憶はいつだったか。 涙が枯れてしまったのかもしれない…

空気を読む力が手に入れたくて。

空気を読める人になりたいな。 タカシが言う。 なんで? ヒロキはタカシを見つめる。 その方がいろいろといいでしょ? タカシの表情は真剣だ。 そう?空気読むことってそんなに大切かな。 ヒロキは空を見上げる。 大切でしょ!流れというか、雰囲気というか…

一度も負けられない戦い。

シノブには誰にも言えないことがある。 どんなに仲の良い友人にも家族にも。 誰かと言わない約束をしたわけではない。 シノブが自分で決めたことだ。 ぼくはヒーロー。 シノブはそう思って、いつも戦っている。 殴りたい。 蹴りたい。 壊したい。 罵りたい。…

やる気スイッチの形状。

やる気あるのか? オフィスに怒号が響く。 声の主は部長。 オフィスにいる誰もが、またか、と下を向く。 日常茶飯事の怒号。 ターゲットは日によって変わる。 誰もが自分にならないように、ビクビクしている。 やる気あるのか? いつだって部長はこう言う。 …

しばしのあいだ夢を見る。

眠ろう。 眠っているあいだは自由だから。 起きているあいだより、幾分も。 起きているあいだはいろいろ大変。 不自由しかない。 あんなことやこんなこと。 誰にだって思い当たることはあるでしょう。 だから眠る。 眠たいから眠るのではなく。 自由になるた…

人との違いを恐れない。

私は人と違う。 そのことを恐れている。 そのことを悲しんでいる。 どうして私はこんなに人と違うのか。 見た目も思考も嗜好も。 バレないように努力する。 上っ面だけでも、まわりに合わせようとする。 波風立たないように、滑らかに。 人それぞれなんて言…

積み上げて崩してまた積み上げる。

積み上げたものはいつか崩れる。 積み上げれば積み上げるほど、崩れやすくなる。 それが世の常。 崩れたとしても、また積み上げる。 それが人の常。 崩れることがわかっていながら。 でも崩れたとしても、消えるわけではない。 積み上げたものが消えたように…

一寸先も前も闇。

歩いているとやたらと視線を感じる。 いつもはこんなことないのに。 町行く人に見られることも、ましてや振り返られることなんて。 今まで一度も経験したことがない。 なのに、今日は、なぜだか、やたらと視線を感じる。 歩くたびに視線の量は増えていく。 …

ミリ単位の世界。

ほんの少し。 ミリ単位。 たったそれだけの違いで、誰もが一喜一憂。 ほんの少しの違いが、大きな違いとなる。 そのままでもいいし、変えてもいい。 どうにでもできるし、どうにもならない。 小さな問題だけど、大きな問題。 もう少しだけ大きくしたいけど。…

虹の橋の端。

天気の良い休日。 あちこちで洗車が行われている。 大きな車も小さな車も。 赤いのも黒いのも、青も白も。 洗剤をしっかり泡立てて。 太陽を浴びてキラキラ光っている。 ホースから飛び出す水もキラキラ。 いろんなところで小さな虹がかかる。 一回乗ればま…

輪の中心にあるもの。

いつも遠くから眺めている。 羨ましいな、という思いと一緒に。 何を話しているのか。 何に笑っているのか。 何がどうなっているのか。 何もわからず、ただ想像する。 近づくことなんてできない。 勇気がないから。 リターンよりもリスクのことばかり考える…

重ね重ね重ねていく。

消し去りたい過去に限って消えない。 鮮やかな配色で彩られ、どこの部分も細かく丁寧に描かれている。 消しゴムでは消せない。 えんぴつで描かれているわけじゃないから。 消し去りたい過去は、絵の具で描かれている。 すっかり乾いて固まって、削り取ること…

ちょうどいい言葉を探していく。

小さな明かりにアサミが照らされている。 目悪くなるよ。 サヤはアサミに言う。 この方が集中できるの。 アサミはサヤの方を見ることなく返し、シャーペンで何か書き込む。 毎日、毎日。よく飽きないね。 サヤはアサミの指先を覗き込む。 同じ問題ばかりだっ…

足元見て歩いても目的地には着く。

いつも何かを探している。 何を探しているのかは、わからない。 ポケットの中やバッグの中にないのはわかっているのに。 引き出しにもクローゼットにも。 いつも、もしかしたら、って探している。 探してばかりで、足元ばかり見ていたら。 ちゃんと前見て歩…

泣き虫さんのお隣さん。

えんえんえん。 誰かが泣いている。 いつもどこかで。 誰かが泣いていても、何もできずに、ただ泣き声を聞く。 泣き声のする方には目もくれず、ただ泣き声を聞く。 えんえんえん。 いつもどこかで誰かが泣いていている。 泣いている誰かの側には誰かいるのか…

あなたはひとり何を聴く?

町にはイヤホンをつけた人がいっぱいいる。 右を見ても左を見ても。 どこを見ても人はたくさんいる。 その中にどこにでも、イヤホンをつけている人がいる。 みんな、何を聴いているのだろう。 こっそり近くに寄って、耳をすます。 音漏れしているかもしれな…

神様の言うとおり。

どちらにしようかな。 神様の言うとおり。 こっちだ。 自分じゃ決められないから、神様にお願いした。 こんなときだけ、お願いした。 都合の良いときだけ、って自分でも思う。 小さいころは、もっと違った。 いつも神様はそばにいた。 悪いことしたら神様に…

探し物は意外なところにある。

サオリは深くまで潜った。 息を止めて、勇気を出して。 底の見えない、深い底へ向かって。 「はあ、疲れた…」 サオリはソファに深く沈み込む。 「どうした?」 ケンジはネクタイをゆるめ背広を脱ぐ。 「今日さあ、ランチ会で…」 「ああ…」 サオリの言葉を遮…

高いところに憧れる。

肩甲骨って翼の名残なのか。 その昔、人には翼があったのか。 何もない空を飛ぶことを諦め、いろんなものが満ちている地上に降りた。 歩くことを学び、走ることを覚えた。 翼の代わりに手を手に入れた。 そして、手をつなぐことを幸せだと感じるようになった…

いつまで経っても届かない人。

見上げるばかりの肩に、ようやく並びかけたころ。 あなたの隣によく並んでいた。 あなたの肩と並べたら、どんな景色が見えるのか知りたくて。 毎日、毎日、隣に並んだ。 毎日、毎日、あなたとの肩の距離を測っていた。 あとどれくらいで並べられるか。 あと…

しおりの使い方。

続きは読みたいけれど。 あれもしなきゃ、これもしなきゃ。 そう思って読みかけのページにしおりを挟む。 早く続きが読みたい。 そう思っていたけれど。 気づけば、最後まで読み切っていない本が山積み。 また一冊増えてしまった。 読み切っていない本がたく…

神のみぞ知る。

君は神様なんていない、と言う。 神様がいたらもっと良いことがあってもいい。 自分だけが頑張っているとは言わないけど、頑張っていないことはない。 なのに、神様を見たことも感じたこともない。 君はそう言って、寂しそうな顔をする。 これまで何度も神様…

小さな世界の真ん中で。

私は今ひとり。 私だけの時間。 誰にも邪魔されたくない。 私だけの空間。 誰も音をたてないで。 足音すら、いらない。 私は、私も知らないどこかを一点見つめ、心と会話する。 心に映る私と会話する。 だからノックもしないで。 ひとりで閉ざしているから。…

悲しみは私で喜びはあなた。

羊を数える。 眠れないから。 鼓動を数える。 羊を数えることに飽きたから。 頭の中に浮かぶことを数える。 どうせ眠れないから。 瞬きを数える。 目を閉じていても瞬きをする感触はある。 ため息を数える。 吐き出しているのにからだは重たくなる。 歳を数…

何かを考えるだけの時間は贅沢。

知人と食事をすることに。 店の前で待ち合わせ。 昔からの知人。 付き合いは長い。 「昔はよかったね」が口癖の知人。 ふたりで昔話をよくする。 何度も同じ会話をするのに、何度も笑い合う。 昔はよかったね。 そう思うところは、確かにある。 楽しかった記…