雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

はじまりと終わりの場所。

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ちゃぷちゃぷ

 

あったかいな。

ここはどこ?

私が誰なのかもわからない。

ただ、ひたすらに落ち着く。

 

ちゃぷちゃぷ

 

あったかいな。

目の前にいるのは誰?

それは、いつか、なんとなく知ること。

 

ちゃぷちゃぷ

 

つめたいな。

長靴履いて、水たまり。

深さなんてわからない。

ゆっくり足を入れればわかること。

 

ちゃぷちゃぷ

 

いつしか長靴を履かなくなる。

つめたいな。

飛び散る水しぶきが足にかかって、舌打ちする。

 

ちゃぷちゃぷ

 

あったかいな。

いつしか、お風呂にひとりで入るようになる。

昔のようにはいかない。

それは、悲しいことなんかじゃない。

 

ちゃぷちゃぷ

 

あったかいな。

ふたりで入るお風呂。

目の前にいるのは、愛する我が子。

まさか、私が。

私も君も、あったかいところからやってきた。

だからここは落ち着く。

君はまだ私が誰だか知らないだろう。

それは、いつか、なんとなく知ること。

 

ちゃぷちゃぷ

 

つめたいな。

君は長靴を履いて水たまりへ。

水しぶきが私の足にかかる。

君が笑っていれば、私も笑う。

 

ちゃぷちゃぷ

 

あったかいな。

君もそのうち、ひとりでお風呂に入るのだろう。

それは、悲しいことなんかじゃない。

私は自分にそう言い聞かす。

 

ちゃぷちゃぷ

 

私も君も。

また戻るんだ。

ちゃぷちゃぷする場所へ。

大丈夫。

きっと、そこはつめたくない。

 

ちゃぷちゃぷ

 

それまで笑っていよう。

ちゃぷちゃぷしたり、しなかったり。

それまで一回でも多く、笑っていよう。

大きな大きなちゃぷちゃぷした場所へ、戻るまで。