負けられない戦いはそこらじゅうにある。
陽が傾きはじめた。
あんなに低くなったのに、まだこんな時間。
昼は短く、夜は長くなる一方。
橙に染まった空のはしっこを見ながら自転車を漕ぐ。
風は冷たい。
我慢できないほどではないけれど。
ハンドルから右手を離し、ポケットに入れる。
ゆっくり自転車を漕ぐ。
ペダルを回す回数が徐々に減っていく。
ペダルを強く漕ぐ。
一回だけ。
どこまで進めるか。
どれだけ足を着かずに行けるか。
自転車に乗れば、だいたい向かい風。
スピードが落ちてきたら、ハンドルを左右に振る。
足を着きそうになったら、またペダルを一回だけ強く漕ぐ。
次の目標は、あそこの自動販売機。
空の橙はほとんどなくなってきた。
それでも、まだまだこんな時間。
急ぐ理由も焦るものも、ない。
早く帰りたい理由も、ない。
少しずつ上達してきた。
陽は沈み、風はさらに冷たくなった。
自転車のライトが振れる。
帰ろうか。
吐息と共に呟く。
ペダルを漕ぐ回数を増やす。
それでも、ゆっくり、進んでいく。
自転車に乗れば、だいたい向かい風。
家まではあともう少し。
まあ、ここよりはあったかいか。
冷たい風が正面からやってきた。