町と君が眠るあいだ。
遠くから電車の音が聞こえる。
線路沿いにある安いワンルームに寝っ転がっていると、からだに響く。
終電じゃなく始発。
隣では君が寝息をたてている。
電車が走る音に合わせるように、妙にシンクロしている。
君はここにいるべき人じゃないよ。
無責任に言葉を吐き出す。
寝息をたてる君には、到底届かないことを知った上で。
さあ、寝よう。
始発と共に眠りにつく。
君はもう少しで目覚めるだろう。
終電でやってきて、始発のころに起きる。
始発と共に眠りにつく僕とは違う。
君と僕とは、違う。
本当はそうしたい。
本当は君のようにしたい。
だからお願い。
君が眠りから覚めたら、僕を起こしてほしい。
君が眠る前に言っておけばよかった。
いつのまにか、君は眠っていたから言い忘れたよ。
起きたら君はきっと、そっと音をたてずに出て行くだろう。
君はここにいるべきではない。
君にここは似合わない。
無責任な言葉を投げかける。
自分に言い聞かせるように、投げかける。
目が覚めたら、君はもういないのだろう。
僕は君の頬に口づける。
名残惜しさを残すように。
心のすみっこでは起こしてほしいと願いながら。
始発が通り抜ける。
君は電車の音にシンクロしながら寝息をたてる。
起きたら君はここにはいない。
君はここにいてはいけないから。
始発と共に君は行ってしまうと思っていたけれど。
とりあえず始発は乗り過ごした。
終電まではまだ時間がある。
こっそり君の手を握って、眠りにつく。