画面の向こうは別世界。
嫌なニュースばかりだな。
ヒロキはテレビを眺めながら言う。
そうだね。見ているだけで痛々しい。
ミサはヒロキの隣で頷く。
考えられないよな!まわりは気づかないのかな。
ヒロキは次第にヒートアップする。
……どうだろう。
ミサはなにかを飲み込むように答える。
ほら!またこんなニュース。どうなってるんだこの国は。こんなんじゃ、いつまで経っても平和なんて訪れないよ!
……そうだね。
政治家はなにをやってるんだ!誰かがなんとかしないと!
……一人ひとりがちゃんと考えないとね。私たちも…。
俺らじゃどうしようもないよ。なんの影響力もないんだから。
……まずは自分の身の回りからだよね。
こんな大きな事件、このあたりじゃ起こらないよ。
……でも可能性はゼロじゃないでしょ?
ゼロじゃないけどゼロに等しいでしょ。こんな大事件。
……この人たちもきっとそう思ってると思うよ。まさか、って。
そうなる前に気づくと思うけどな、いろいろと。
……そうかな。こういうのって突然起こったりするから。それがこっちに起こらないとは限らないよ。世の中いろんな人がいるから。
いろんな人はいるけど、俺のまわりにこんな奴はいないな。もしいたら、こうなる前になんとかするでしょ。
……なんとかできる?
できるよ。俺じゃなくても、誰かがやるし。これだけ人がいるんだから。
……そんなに他人事でできる?
できるって、きっと。
……ふうん。あっ、そうだ。これから選挙行くけど、一緒に行く?
選挙?選挙なんて行ったことない。
……えっ?
だって行ったってなにも変わらないだろ?考えてみろよ。何十万、何百万っていう票があるんだぞ。俺の一票なんて、意味ないよ。
……一票の積み重ねでそれだけの票になるわけでしょ?
まあそうかもしれないけど。俺の一票がないくらい、なんの問題もない。
……。
ミサはまたなにかを飲み込む。
そのまま、なにも言わず、部屋を出て行く。
ヒロキがテレビを観ながらまたなにか言っているのを、背中で聞き流しながら。