雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

恋愛と結婚はやっぱり別物なのかもしれない。

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危ないからこっち来て。

目の前を歩く親子。

父親が小さな子供に向かって言う。

 

子供の足取りはどこまでも不安定。

父親は左肩を下げて、左手を差し出す。

子供はそれを、右手でしっかりと掴んだ。

 

ふたり手をつないで、ゆっくりと歩いていく。

 

父親はいつだってまわりをキョロキョロ、忙しそう。

 

子供はそんなことお構いなしに、小さな足をペタペタさせ、大きなお尻をフリフリさせる。

 

なんだか、ずっと、ふたりは楽しそう。

 

かわいいね。

私の隣を歩くあなたは言う。

 

そうだね。

私は頷く。

 

父親はずっとまわりをキョロキョロ。

つないだ手をしっかり握ったまま、いつだって笑っている。

 

親って大変だね。でも、そのぶん、大切にしていることは見ていて伝わるよね。

あなたは、それらしいことをそれらしい表情で言う。

 

きっとあなたが思っている以上に子育てって大変なんだと思う。あなたと同じで子育てをした経験がない私が言うのもなんだけど、だからこそ思う。大変だね、なんて気軽に言うことはできないくらいに、きっと大変なんだ。

私は心の中でそう思いながら、あなたには、そうだね、と無機質に答える。

 

ここは危ないから、抱っこしたほうがいいのに。

あなたは言う。

 

余計なお世話。

私はそう思いながら、あなたには、そうだね、と怒ったように答える。

 

この道は大して広くないわりに、車の往来が激しい。

たしかに危ない。

それでも父親は車道側に立ってしっかりと子供の手をつなぎ、いつだってまわりをキョロキョロしている。

きっと子供のために、まわりの人たちのために。

 

俺、子供好きなんだ。君は?

あなたは私に訊く。

 

好きよ。

私はあなたが求める答えを言う。

 

ああいうの見ると、癒されるよね。

あなたは私に言う。

 

そうね。

私はあなたが求める答えを言う。

 

ああいうの見ると、家族っていいな、って思うんだ。

あなたは私に笑いかける。

ずっとなにかをアピールしているかのように。

 

車が何台も往来する。

父親はしっかりと手をつなぎ、時折立ち止まり、子供に笑いかける。

 

あなたは私の手をとることなく、私はずっと車道側を歩く。

 

家族っていいな、って思うんだ。

笑いかけるあなたに。

私に問いかけるあなたに。

 

私は無意識のうちに、気づかないフリをしていた。