探しているのは必然か奇跡か。
マナミは町を歩くたび、探してしまう。
黒くて大きな車を。
町にはいくらでもいる。
でも、どれも違う。
町にはいくらでもいるから。
そのたび、目で追ってしまう。
マナミは信号待ちのたび、探してしまう。
目の前をいくつも通り過ぎる、黒くて大きな車を。
すぐ近くはもちろん、遠くにいる車にも視線を送る。
運転席も助手席も。
後部座席は外から見えなかったから諦める。
でも大丈夫。
ナンバーはちゃんと覚えている。
彼の誕生日。
そんなベタなことをすることが好きな人だった。
マナミはクラクションが響くたび、探してしまう。
自分を呼んでいるのではないかと。
久しぶり、なんて笑いながら。
黒くて大きな車。
町にはいくらでもある。
ナンバーはちゃんと覚えている。
車種はよく知らない。
彼の顔はしっかり覚えている。
笑った顔もそうじゃない顔も。
今はどこでなにをしているのかは知らない。
黒くて大きな車。
特別でもなんでもない、どこにでも売っている市販車。
でも、違う。
どの黒くて大きな車にも、彼は乗っていない。
マナミは探してしまう。
いつでも黒くて大きな車を探してしまう。
いつでも彼を探してしまう。