雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

私なりの涙の出し方。

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どのくらい泣いていないのか、自分でもわからない。

泣いたことはもちろんあるけれど、どうして泣いたのか思い出せないくらいに前のこと。

 

泣かないことはからだに悪いと聞いたから。

どうにかして涙を流したいと考える。

 

泣けると評判の映画を観る。

泣けない。

泣けるみんなが観て泣けると言うのなら、私が泣けるはずがない。

 

壁に頭を打ちつける。

危ない奴だと思われるから、誰もいないところで。

血が出るほど、骨が折れるほどにはやらないけれど十分痛い。

それなのに涙は出てこない。

痛いくらいで泣けたら苦労しない。

 

目をずっと開けてみる。

乾燥する瞳を本能が守るために涙の一粒でも流れてくるかと思ったけれど、そこまで我慢できずに目を閉じてしまう。

 

泣けない私を思い浮かべる。

かわいそうな人。

 

自分ではそう思っていなくても、思い浮かべると自分のことでもそう思えるから不思議。

 

つまらない映画が流れたまま、頭が少し痛いまま、瞬きをする。

涙なんか出ない。

 

かわいそうな人。

 

そんな声がどこからか聞こえてきた。

私の声で聞こえてきた。

 

そうしたら、自然と涙がこぼれてきた。