雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

爪切り、三日月、ゴミ箱。

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爪を切る。

パチンパチンと響く音。

それほど伸びてはいなかったけれど、気になったら切らずにはいられない。

爪が短すぎるといろいろ不便だから本当は切りたくないんだけど、少しでも短くしたい。

 

理由はわかっている。

爪のあいだに、あなたの痕跡が残っているから。

皮膚なのか細胞なのか汚れなのか匂いなのか。

あなたを引っ掻いた痕跡が、私の爪に残っている。

 

あなたはどこまでも適当で、その場しのぎで、耳障りの良い言葉と歯の浮くような言葉ばかり並べて積み重ねる。

 

そんなの嘘よ。

そうわかっていても、私は抗えない。

あなたはそれを知った上で言うから、本当に卑怯。

 

パチンパチンと爪を切る。

きれいに切れた爪は三日月のよう。

ひとつひとつテーブルの上に並べてみる。

不揃いな三日月が並んで、どれにもあなたの痕跡が。

 

全然、きれいじゃない。

一気にまとめてゴミ箱へ捨てる。

 

窓の外には本物の三日月が浮かんでいる。

 

爪はまた伸びる。

あなたに会うたび、伸びる。

そのたび爪を切らなくてはならない。

あなたの痕跡を消すように。

 

そろそろあなたから連絡が来るころ。

連絡が来るとしたら、いつもこの時間。

 

あなたは卑怯。

きっと私も卑怯。