君の機微に触れていたい。
このあいだ食べたのより美味しいね。
本当?
うん、何か変えたの?
ちょっとね。
君はうれしそうに笑った。
僕はドキドキしている。自分から言っておきながら、何が違うのか訊かれたら困るから。
違いがわかる男のふりして、食通ぶって。
細かいことは何も気づかず、何もわからないのに。
何を変えたのか、隠し味に何がはいっているのか、そんなことわかるはずもない。
細かいことに気がつかない。
どうやって味を変えたのかも、君の僕に対するやさしさも。
本当は違いのわかる男でありたくて、そう思われたくて。
それっぽいことを言ってみるけれど、何もわかっちゃいない。
君はきっとそんな僕に気づいているだろう。
細かいところに何も気づかない僕に。
君はそれに対して不満を言うわけでもなく、美味しい料理を作ってくれる。
たまにアレがアレなときはあるけれど、ほとんど美味しい。
細かいことに気づけなかったり違いがわからなかったりする僕には、大した問題ではない。
そこをどうのこうの言うのは、贅沢すぎる。
料理も、君も、僕にはすでに贅沢だから。