雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

運命の人、理想、現実。

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家でソファに沈み込んで映画を観ながらお菓子を食べる。

 

画面の向こうも窓の向こうも賑やかなのに、この部屋はどこまでも静かで穏やか。

なにもない時間だけど、かけがえのない時間がただ流れている。

 

それでも人は欲張りだから。

こんな時間をひとりで過ごしたくない。

こんな時間ばかり過ごしているくせに、そんな願いが頭をよぎる。

こんな時間を誰かと一緒に過ごせたら。それが大切な人だったら。

 

ピンポン。

 

部屋のチャイムが鳴った。

 

誰だろ?

ドアを開けると宅配便だった。

 

お届け物です。こちらにサインをお願いします。

 

なにも買った記憶はないし、なにか届く予定もないはずなのに。大きな段ボールがひとつ、配達人のうしろに置かれている。伝票を見るとそこには、運命の人、と書かれてあった。

 

運命の人?

不思議に思いながら、伝票にサインをした。

 

さっきまで願っていたせいか、心当たりのない不審な物が届いたという恐怖よりも、運命の人という光り輝くワードに惹かれた。今の時代、運命の人は白馬に乗ってやってくるのではなく宅配便で送られてくるのだ。なんの考えもなく、ただ目の前に起こったことを受け入れた。

 

大きな段ボールにはどんな人が入っているのだろう。私の運命の人はどんな人なのだろう。天が選んだ人はどんな人なのだろう。

ドキドキワクワクが止まらない。

ガムテープを剥がそうとしたその時。

 

ピンポン。

 

再びチャイムが鳴る。

さっきの宅配の人だ。

 

申し訳ありません。お隣の方と間違えてしまって…。

謝罪もそこそこに大きな段ボールを抱えて出て行った。

 

運命の人。

私は呟く。

流れたままの映画はクライマックスを迎えているのに、ストーリーはもうわからなくなっている。

 

なにもない時間が流れはじめる。

かけがえのない時間だったはずなのに、今はもうただのなにもない時間。

 

ピンポン。

静かな部屋に響くチャイムの音。

私のところじゃない、隣の部屋のチャイムの音。

すぐに隣人の喜ぶ声が響いてきた。

 

映画はすでにエンドロールが流れている。