雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

すくえない、見えない隙間、指の間。

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すくおうとしたのに。

たくさん、すくおうと。

 

でも結局、なにも残ることはない。

手のひらが湿るだけ。

 

手のひらに乗っかった水は、指と指の隙間から消えてなくなった。

 

一度でどれだけ多くの水をすくえるのか。

そんなことばかり考えていて、いろんな方法を試してみた。

けれども、一度も上手くいかなかった。

 

そんなこと考えなくてもよかったのに。

今ならそう思える。

 

どんなにがんばっても、指と指の間には隙間が生まれる。

隙間がないように見えても。

見えない隙間は存在する。

 

こぼれ落ちて、すべり落ちて。

時間が経てば、手のひらが湿って終わるだけ。

 

すくいたくても、すくえない。

 

適当に水をすくえば、それだけで顔をすすげる。

それだけで渇いた喉を潤せる。

それだけで流した涙を拭きとれる。

 

どれだけすくおうとしても、見えない隙間からこぼれ落ちる。

なにもすくえないまま。

 

濡らした頬を濡れた手のひらで撫でるだけ。

なにもすくえないまま、乾くだけ。

 

だから、もう欲張らない。

すべてをすくおうだなんて。

すくえたぶんだけで、十分だから。