雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

便利すぎて不便な今日この頃。

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今の世の中はとても便利。誰かのおかげで、とても便利。

あなたはそう言う。

僕もそう思う。

 

例えば、あなたが僕と待ち合わせをしていたとしよう。

 

約束の時間になっても僕はやってこない。

あなたはあたりを見渡すけれど僕の姿は見えない。

元々、あまり乗り気じゃなかったあなた。

僕に連絡して繋がらないかもっと遅くなりそうなら、キャンセルしようとする。

 

バッグからスマホを取り出したら、ちょうど僕から着信が。

ごめん、北口と南口を間違えたからあと3分で着く。

 

電話を切ると同時に、あなたは大きく息を吐き出した。

 

ようやく合流して、ごはんを食べに行こうとする。

 

なにが食べたい?

僕はあなたに訊く。

 

なんでもいいよ。

あなたは言う。

 

じゃあ、ここらへんで美味しいお店は…。

そう言って僕はスマホをいじる。

 

今から探すの?

あなたはできるだけ平坦な口調で僕を見る。

 

これが一番信用できるからね。

あなたの視線からなにかをなんとなく感じ取って言い訳がましく笑う。

 

店構えや雰囲気で決めることは、もうない。

そんなギャンブル、誰もやらない。

 

美味しいところはすぐに見つかった。

食べてみたら、本当に美味しかった。

 

美味しいものを食べられたのに、どこか味気ない。

便利だけど、余白がない。

あなたはそう思うのか、思わないのか。

 

次どこ行く?

 

私もう帰らなくちゃ。

 

もう?

 

うん、ちょっと用事があって。

 

僕はもう少しあなたと一緒にいたいのに。

用事があるのならしょうがない。

本当か嘘かは知らないけれど。

 

じゃあ駅まで送るよ。

あなたの隣を歩く。

スピード落とそうとするけれど、あなたは自分のペースを守る。

 

あと5分で電車が来るから。

あなたはスマホをいじりながら、歩くスピードを上げた。

 

1本乗り遅れても、すぐに次の電車がやってくるよ。

そんなことを思いながらも、あなたはには言えない。

 

あなたは思う。

便利な世の中ね。

 

僕は思う。

便利すぎると不便なんだな。

 

さよならしたあと、あなたは一度も僕の方を振り返らなかった。