どうせやるなら完全犯罪。
部屋を隅々まで掃除する。
四隅も棚の下も取っ手も天井さえも。
一心不乱に掃除する。
何度も雑巾をとりかえて。
クイックルワイパーは水拭きと乾拭き。
コロコロ転がして、剥いで、転がして。
洗剤はダースで買ったから心配いらない。
指紋ひとつ残らないように。
いらない物はどんどん捨てる。
洋服も食器も、今となってはただの紙くずになったものも。
少しでも迷ったら、捨てる。
あまり記憶にないものだって、どっちかわからないから捨ててしまう。
ゴミ袋は箱ごと買ったから心配いらない。
痕跡が残らないように。
ファブリーズを撒いて。
アロマを焚いて。
すべての窓を開けて、扇風機を回して。
すべての空気を入れ替える。
すべての匂いを取り替える。
すべて消し去る。
あなたが触ったところ。
あなたが座ったところ。
あなたがいたところ。
あなたの匂いがついたところ。
すべて消し去るためにやっている。
実物のあなたも、頭の中のあなたも消し去ることはできないから。
忘れたいあなたのために、罪を犯すことはできないから。
この部屋の隅々まで。
すべて徹底的に、消していく。
あなたの痕跡と一緒に。
私の罪すら、消去する。