壁一枚突き破る方法はただ一つ。
隣の部屋から笑い声が聞こえてきた。
楽しそう。
こっちの部屋で私はひとり耳をすませる。
途切れながらも会話が聞こえる。
それなのに重要なところは聞こえてこなくて、話の流れがわからない。
また、笑い声。
一瞬、椅子から腰を浮かせる。
けれどもすぐに座り直した。
途中から入って自分のためだけに話の流れを確認するほど、私は不届き者ではない。
そうやって自分に言い聞かせる。
息を吸って吐いて、耳をすませる。
ふう、と音を立てて煙を吐き出した。
揺れて消える煙草の煙のように。
扉一枚隔てて私は消えている。
疎外感。
会話からも社会からも。
それでも煙草をやめられない。
それを捨ててまで知りたい会話なのだろうか。
そんなはずがない、と自分に言い訳する。
煙草の火を消しても、すぐには動かない。
タイミング良く、扉を開けなければ。
息を吸って吐いても、煙はもう出ない。
もう煙草やめようかな。
吸い終わった直後は、いつだってそう思う。