カーナビ、方向音痴、2分の1。
自分が行く道は自分で決める。
そんなカッコつけて。
どうせ何かの漫画の影響でしょ。
方向音痴のくせに。
案の定、道に迷った。
方向音痴のくせに、右折か左折かの二択ですら間違うんだから救いようがない。
ここ、どこよ。
こういう知らない道を運転するのって楽しいよな。
強がりすぎて何を言っているのか理解できない。
お腹空いたよ。
私は見たことのない車窓を眺める。
そうだな。俺は方向音痴で道に関する勘はさっぱりだけど、美味しい店を見つける勘は鋭いんだ。
方向音痴の自覚はあったのね。
それなら、なぜカーナビに目的地をセットしなかったの?
右と左の二択は外すし、セットするかしないかの二択も外すのね。
しばらく車を走らせる。相も変わらず見たことのない風景が流れる。いくつも食べ物屋をスルーして、ようやく車を停めた。
そば屋だった。
こういう感じの店は、間違いなく美味い。
あなたはいつだって自信満々。
道を選ぶときも。
だからこそ、不安がよぎる。
店の雰囲気は良い。
おすすめと書かれた山菜そばを注文する。
美味しい。
今まで食べたそばの中で一番と言ってもいいくらい。
なっ?俺の勘は当たるだろ?
満足気にそばをすするあなた。
これは認めるわ。でも、ここから先は絶対にカーナビをセットしてよ。
自慢気なあなたに、私は言う。
選択肢はない。セットする一択。わかった?
わかったよ。
でも、そばは美味しい。
だろ?こんなに美味しいそばに出会えるなんて。道に迷って良かっただろ?
それ、本気で言ってる?
ウソです。カーナビつけます。
よろしい。無事着いたら、向こうでその美味しいお店を見つける勘を働かせて。
窓には見知らぬ景色が広がっている。
知らない景色でもなんだか安心できる。
満腹も相まって、少し眠たくなってきた。