バイキングの王道を歩みたいのに。
バイキングはあまり好きじゃない。
少食だからいつも元は取れない。
食にこだわりがないから取るものは偏る。
センスがないからプレートに乗せたらちっとも美味しそうに見えない。
様々な理由により、あまり好きじゃない。
近くに新しいお店ができたから、と君に無理矢理連れてこられなければ来ることはなかっただろう。
たまにはいいじゃない。こういうところ、ふたりで来たことないでしょ?
いくつも並べられた料理を前に君は目を輝かせる。
認めよう。
たしかに、美味しそうだ。
おなかが空いていることも相まって、美味しそうに見えた。
ずっと昔に友人たちとバイキング方式の店に行ったことがある。
そのイメージからはかけ離れている。
品数は少なく、土色のものばかりだったあの頃とは違う。
色とりどりの豊富な種類の料理たち。
君はあれもこれもとプレートに乗せていく。
君も少食なのに。
そんなに食べられる?
少しずつだから大丈夫。
僕も選ぼう。
高級そうなものからあまり見たことのないもの、そして定番のもの。
迷う。
君は先に席へ着いていた。
テーブルの上には、きれいなプレートが置かれている。
見た目も栄養バランスも良さそうなプレートが。
何それ?
君の視線は僕が持ってきたプレートに注がれた。
カレーに唐揚げ、チキン南蛮。
見事に土色、茶色。
チキン南蛮の上に乗った申し訳程度のタルタルソースだけが白く光っていた。
一つひとつを見れば、きっと美味しいはずなのに。
合わさったら、全然美味しそうじゃない。
あんなに品数あったのに。
結局は定番ばかり選んでしまう。
好きなものばかり選んでしまう。
なにより、見た目が気に入らない。
自分で盛りつけたくせに。
食べたら一緒だよ。
君の慰めが痛い。
いろんなものを食べられる。
たくさん食べられる。
盛り付けのセンスを問われる。
バイキングの王道を歩みたいのに。
僕は邪道を突っ走る。
好きなものだけ食べられるのもバイキングの醍醐味だよ。
君の言葉が斜めに突き刺さる。
ある意味、王道か。
そう言いながら、茶色に染まったプレートを見つめる。
だからバイキングはあまり好きじゃない。
席から立ち上がり、料理を取りに再び向かう。
何それ?
君は言う。
マグロとサーモンの握り。少しは色合いがマシだろ?
僕はプレートの端に、それを置く。
いびつな色あい。センス。
やっぱりバイキングは好きじゃない。
でも、バイキングだからといって取りすぎて残すのはもっと好きじゃないから。
僕は腕まくりをして、ベルトの穴をひとつゆるくした。