水たまり、滑る車、踊る私。
雨上がりの車道。
ハンドルを握るあなたと楽しくおしゃべり。
夕べはけっこう雨が降っていたから、道路には大小様々な水たまりが。
シャーシャーと音をたてて。
車は滑るように進んでいく。
いつも安全運転なあなた。
私を乗せると、さらに顕著。
スピードは出しすぎないし、ブレーキはやさしく踏む。
そんなあなたが、いつもより少しだけ強めにブレーキを踏んだ。
私のからだは前のめりに。
ほんの少しだけど。
ごめん、ごめん。
あなたは言う。
どうしたの?
私は訊く。
いや、別に。
あなたは理由を言わないけれど、私はなぜあなたがブレーキを少し強めに踏んだのか知っている。
ねえ、どうしてよ?
私は意地悪して、もう一度あなたに訊く。
ちょっとミスっただけ。
あなたはそう言って、アクセルを踏み込む。
やさしいのね。
照れ屋なのね。
それも知っているけれど。
先には大きな水たまりがあって。
歩道には人がいて。
隣の車線には車がいるから車線変更も寄せることもできなかった。
だから、スピードを落とした。
あんまり大きな水たまりじゃなかったから、気づくのが遅れたのね。
そのぶん、ブレーキを踏む力が強くなっちゃったのね。
あなたはそのことを言わないけれど。
私は知っている。
私もそれを言わない。
私は知っているから。
私の胸の中で、なにかが踊った。