雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

誕生日プレゼントの行く末。

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タンスの奥から紺色のマフラーを引っ張り出した。

 

今日はこの冬一番の寒さになるらしい。

 

これ懐かしくない?

君にマフラーを見せる。

むかし、僕の誕生日に君が贈ってくれたマフラー。

 

ああ、そうだね。

君の返事はそっけない。

期待していたリアクションからは程遠い。

 

覚えてる?

もしかしたら忘れているのかもしれない。そう思って君に問う。

 

覚えてるよ。

君の言葉はそっけないまま。

 

このマフラーをプレゼントしてくれてから数年。

あの頃の君はいなくなったのかもしれない。

そう思うと切なくなってきた。

 

覚えてる?

少し怒りを込めて、もう一度問う。

 

覚えてるってば。私がプレゼントしたマフラーでしょ?

僕以上の怒りを込めて君は言う。

 

君はしっかり覚えていた。

なのに。

どうして。

そんなテンションなのだろう。

 

もっと喜んでもらえると思った。

むかしを懐かしんで話が膨らむと思っていた。

 

君の態度は、完全に想定外だった。

 

懐かしくない?

少しでもあの頃の気持ちを思い出してほしくて、僕は君に問う。

 

懐かしいよ。

君は言う。

 

君の心が揺らいだ気がした。

もう一押し。

次に問う言葉を発しようとしたとき。

 

懐かしいよ。そのマフラー、何年ぶりに見たんだろう?

君の視線と言葉で、僕は完全に理解した。

 

変な折れ目がついた紺色のマフラー。

タンスの奥にずっと眠っていた紺色のマフラー。

 

僕は我に返る。

己を鑑みる。

 

痛い。

君の視線も言葉も。

あの頃の気持ちを忘れていたのは、僕の方だった。

 

君がプレゼントしてくれたマフラーは、ずっと居てはいけないとこに居た。

 

きっと君はずっと思っていたんだろう。

あのマフラー気に入らなかったのか、と。

 

ごめんなさい。

言葉にはできない。

 

ありがとう。

遅すぎる。

 

これから当分、暖かくなるまで。

このマフラーを着けよう。

 

僕は黙ってマフラーを首に巻いた。