ウソツキキツツキ。
1羽のキツツキがいた。
名前をコンと言う。
お父さんとお母さん。
3羽で仲良く暮らしていた。
大きな木を住み家として。
毎日、楽しく暮らしていた。
どこにでもある。
どこにでもいる。
普通の家族。
ただひとつ。
このキツツキ一家には不思議な癖があった。
ウソをつくと木に穴を開けてしまう。
我慢してもからだが言うことを聞かずに。
ほんの数秒は我慢できるが、必ず木に穴を開けてしまう。
コンもお父さんもお母さんも。
ウソをついたらダメよ。
お父さんもお母さんも毎日のようにコンに言い聞かせる。
うん。
コンは頷く。
私たちはウソをつくと木に穴を開けてしまうの。お家に穴が開いたら嫌でしょ?
うん。
ご覧なさい。この大きな木には穴が開いてないでしょ?お父さんもお母さんもウソをついていないから。コンもウソをつかないようにするのよ。
うん。
コンはまた頷いた。
お父さんとお母さんは満足気な表情で飛んでいく。
それを確認したコンは、すみっこに向かって木に穴を開けた。
コンッ。
小さな穴が開いた。
コンは知っていた。この大きな木にはいくつも穴が開いていることを。
見えづらいところに、いくつもの穴が。
小さなウソくらい誰だってつく。
お父さんだってお母さんだって。
だからコンはそれを知らないフリをした。
大きな木にはいくつも穴が開いている。
それを誰も見ないフリをして、知らないフリをして。
年月がいくつか過ぎた。
お父さんはどこかへ飛んで行ってしまった。
どこへ行ったの?
コンがお母さんに尋ねても、知らない、とだけ答える。
家に新たな穴が開いた。
コンはなんとなく理由はわかっていた。
お父さんとお母さんがケンカする回数が増えていたから。
それに、家が代わったから。
お父さんがいなくなる少し前に。
大きな木は倒れてしまった。
いくつもの小さな穴が原因で、家は倒れてしまった。
コンはお母さんと一緒に小さな木へと引っ越した。
お父さんはどこかへ飛んで行ったから。
きっとコンが知らないキツツキと一緒に。
寂しくない?
お母さんが言う。
寂しくないよ。お母さんがいるから。
コンは笑って頷く。
小さな木に、小さな穴がまたひとつ開いた。