二人きり、初対面、この先。
そこで何やってるの?
向かいに立つ女性に声をかける。
普段ならこんなこと絶対にしないのに。
こんな時だからか。
不思議なものだ。
そっちこそ。
彼女は言う。
初対面なのに、お互いタメ口。
きっと、二人ともここにいる理由は同じ。
妙な連帯感がそうさせる。
きっと同じだよ。
僕は彼女を見つめる。
暗くてはっきりと顔は見えない。
こんなに明かりやネオンが町を照らしているのに。
ここだけ暗いことに納得できないことは、ない。
むしろ、すんなり受け入れられる。
なんだか笑えてきた。
何で笑ってるの?
彼女は言う。
はっきりと見ることはできないが、恐らく彼女は笑っていない。
それでも。
僕の気持ちはわかってくれている気がした。
知りたい?
うん。
こんな時でも?
こんな時だから。
彼女の言葉がすんなり入ってくる。
普段ならこんなことありえない。
こんな時だからか。
彼女だからか。
僕が伝えたいことが彼女に伝わって。
彼女が伝えたいことが僕に伝わる。
僕の頭の中が少し混乱してきた。
さっきまではあんなにクリアだったのに。
こんなこと、今までなかった。
嬉しい反面、どうして今なのか。
もう少し早ければ。
なんなら、ずっとないままで良かったのに。
教えるから、お茶でも飲む?
僕は笑う。
そうね。私もちょうどそう思っていたの。
彼女も笑っている。多分。
じゃあ、あとで。
あとで。
俺と彼女はそう言い残し、足を踏み出す。
俺はビルの屋上のはしっこから。
彼女は向かいのビルの屋上のはしっこから。
町がやたらと眩しく見える。
目を閉じても眩しいほどに。