バカは悪口だけど悪口じゃないバカもある。
バカって言ったらダメだよ。
彼は言う。
子供のころに教わったこと。
大人になったら自分の子供に教えた。
誰もが知っていること。
言われたほうは良い気がしないから。
念を押すように、彼は子供にもう一度言った。
パパにもママにも、お友達にも先生にも。
隣のおじちゃんにもおばちゃんにも、その辺を歩いている人にも。
バカ、なんて誰にも言っちゃダメ。
バカ、って言われて喜ぶ人はいないんだから。
はい。
子供は素直に頷いた。
いつもなら返事は「うん」なのに。
今回は「はい」と返事した。
彼の真剣な表情を見て、子供ながらに事の重大さを感じたのかもしれない。
よし、おりこうさん。
彼は子供の頭を撫でた。
ウチの子、賢いんだ。
空気読めるし、理解も早い。
彼は笑って、そう言った。
親バカだね。
私は彼に言う。
彼はうれしそうに笑った。
親バカじゃないよ。
彼は言う。
親バカだよ。
私は言う。
親バカかな?
うん、親バカ。しかも、かなりの親バカ。
彼はずっとうれしそうに笑っていた。