すべての出来事を確率で表せばどれもなかなかの数字。
車で信号待ちしていたら、左車線に同じ車が止まった。
色まで同じ。
なんだか嬉しいような、恥ずかしいような。
助手席からそれとなくちらりと目線をやると、隣の運転席に見覚えのある顔があった。
元彼だ。
向こうはまだ私に気づいていない。
私の隣でハンドル握ったまま話している今彼は知らない。
左車線にいる同じ車の運転席に座る人が元彼だと。
そして、私が元彼に気づいていることも。
なにもないフリをして前を見る。
今彼と他愛のない会話をしながら、上の空。
横目でちらりと元彼を何度も見る。
あのころとちっとも変っていない。
未練があるわけでない。
こんな偶然、そうそうないから。
元彼は黒いブルゾンを着ている。
今彼が着ているものと、なんだか似ている。
ふたりの顔は、今さらながら、なんだか似ているような気がした。
これは偶然か必然か。
信号が青に変わる。
向こうはスタートが遅れる。
なにやら楽しそうに話していたから。
元彼が選んだ人。
私じゃなく、私の知らない人。
車が先に進んだ分、窓に顔を当てるようにして覗き込む。
元彼の隣に座る人を。
髪の長さも服の色も、顔の系統も、私とは似ていない。
全然似ていない。
これは偶然か必然か。
どうした?
今彼が私に言う。
ううん…。
慌てて前を向き直す。
後方からクラクションの音が聞こえた。
まさか。
もう一度ガラスに顔を押し当てるように、うしろを見る。
元彼の車が動きはじめた。
青信号になっても動き出さない元彼の車。
業を煮やした後続車にクラクションを鳴らされていた。
なんだ。
あのころとちっとも変っていない。
信号が青に変わったのに、左にいた車が動かないから気になっただけ。
私は今彼に、なにやら少し早口で言った。
そのクラクションか。
今彼は興味なさそうに返す。
今彼はアクセルを踏み込み、交差点を過ぎてまっすぐ進む。
元彼はウインカーを出し、交差点を左に曲がる。
すごい偶然。
こんなところで見かけるなんて。
やはり必然。
会話も目が合うこともなく、別々の道。
今彼も元彼も元彼の彼女も、そして私も。
それぞれが出会う確率は、きっと、なかなかのもの。
今彼が楽しそうに話す言葉に、私は大きく頷いた。