シーズン毎に服を買い替える時期は過ぎた。
ガラスが曇っている。
そんな季節になったのか。
ガラスに息を吐きかけると、さらに曇った。
もう一年くらい経ったってことか。
そう呟きながら、去年も同じことを思ったことを思い出した。
曇ったガラスに指を当てる。
去年はなにを書いたっけ…?
文字だったのか絵だったのか、それすら思い出せない。
一旦、指を離す。
気になりはじめたら、止まらない。
今から逆算して、記憶を遡る。
遡る過程で良いことなんてそうそう思い浮かばない。
ろくな思い出がない。
そんな思い出ばかり。
なんだか切なくなってきた。
再び窓にガラスを当て、ゆっくりと指を動かす。
アンパンマンを描いた。
簡単なアンパンマン。
からだはなく、顔だけのアンパンマン。
なにも見ずに描ける唯一のキャラクター。
そうしたら、思い出した。
去年もアンパンマンを描いたことを。
ろくな思い出を通ってこなかった挙句に同じもの。
なんだか悲しくなってきた。
それでも描いたアンパンマンは笑っていた。
それがせめてもの救い。
来年はバイキンマンを描けるようになっていたらいいな。
さよならしているみたいに。
曇ったガラスに描かれたアンパンマンを手で撫でた。