雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

つれない扱いと雨に耐えるだけ。

 

f:id:touou:20191025204514j:plain



大きな傘はいいね。

ふたりして入れるし、ひとりなら絶対濡れないし。

 

小さな傘もいいね。

持ち運びに便利でしょ。

ひとりだけなら傘として役割をちゃんと果たしているし。

 

中くらいの傘が言う。

 

ふたりはいいね。特長があって。

私なんかすべて中途半端。

 

どっちつかず。

あっちつかず。

こっちつかず。

 

汎用性が高い、なんて言われても。

言葉通り、便利なだけ。

 

雨粒がいくつも落ちて、そのたび音を立てて弾ける。

 

三つの傘が集まる。

ぶつかり合って、隙間に雨粒が落ちる。

 

みんな一緒だよ。

大きかろうが小さかろうが、中くらいだろうが。

私たちはどうせ雨がやめば邪魔者扱い。

 

すぐに忘れられるし。

すぐにどこかに置いていかれるし。

すぐに知らない誰かと入れ替わるし。

私たちは似たもの同士だから、あっち行ったり、こっち行ったり。

 

世間の風には弱いの。

すぐに壊れてしまう。

身も心も。

そうしたら、もういらない、って他の誰かがやってくる。

私たちの代わりなんて、たくさんいるの。

 

あなたが一番世の人に求められているの。

大きな傘と小さな傘が中くらいの傘に言った。

あなたも十分、魅力的よ。

もちろん、私たちも。

 

雨さえ降っていれば、私たちは大切にされるの。

大きさなんて、大して気にされない。

雨さえ降っていれば。

 

雨が弱まってきたことに気づいたのか、そうじゃないのか。

それぞれの先っぽから、涙のような雨粒がいくつか零れ落ちた。