香りは移ろい変わっていく。
ああ、焼肉食べたいな。
ミサは言う。
食べたいな。
ジュンも言う。
にんにくたっぷり入れて。
ミサは笑う。
いいね。
ジュンも笑う。
明日は休みだし。
いいね。
信じられないほど、入れたい。
肉の味がしなくなるほど?
そう。めちゃくちゃ臭くなるほど。
ミサは両手で口を押さえる。
それは、ちょっと、あれだな。
ジュンは眉間にしわを寄せる。
どうして?食べたくないの?
ミサはジュンの目を見つめる。
食べたいけど…。
ジュンはミサの口元を見つめる。
なに?
にんにく臭いと、その、あとでキスしづらいだろ?
ジュンは口を尖らせる。
はあ?なに言ってるの、今さら。
ミサは笑う。
親しき中にも礼儀あり、だろ?
ジュンは頬をなでる。
まあ、それもあるけど。私はそういうの気にするより、にんにく臭くてもサラリとキスできる仲のほうが近く感じていいけどね。
気にしない?
ジュンはミサの目を見る。
今さら?
今だから。
うーん…。ジュンだったら気にしないかも。くさっ!って言いながら、笑いながら、キスするの。素敵じゃない?
……。
ジュンが嫌だったら、ほかのものにしようか。
いや!行こう。焼肉行こう。にんにくを信じられないくらい入れて食べよう。肉を食べているというよりにんにくを食べているって思えるくらい。
ジュンはミサの手をとる。
ふたりは笑い合い、あたりを見渡して、軽く唇を合わせた。