雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

立っているのに寝ているように。

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すくいたいのに、すくえない。

 

両手ですくっても、指の隙間からこぼれ落ちる。

いずれは、何もかもなくなる。

 

すくえた、と思ってもほんの一瞬。

 

そんなことに今さら気づく。

 

目を覚ませ。

両手ですくう。

一瞬だけ、すくえている。

それを顔にぶち当てる。

少しは目が覚めるだろう。

 

誰もすくえない。

 

こんなにたくさん人がいるのに。

たくさんすくおうなんて、おこがましいことはわかっている。

 

それでも、たった一人もすくえないなんて。

 

指の隙間からこぼれ落ちるのなら。

いくら閉じてもこぼれ落ちるのなら。

 

いっそ、指を切り落としてやろうか。

 

なにもすくえないのなら。

誰もすくえないのなら。

 

濡れた手を見つめ、鏡を見る。

 

すくえない奴だ。

 

鏡の中にいる奴に向かって、つぶやく。