雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

犬の手も人の手にしたい。

 

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ああ、忙しい。

ルイは汗だくになりながら走り回っている。

 

ああ、忙しい。

ルイは誰に言うわけでもなく言う。

 

猫の手も借りたい、ってこういうことね。

ルイは手も足も頭もフル回転させている。

 

ああ、忙しい。猫の手も借りたいわ。

ルイは再び、言う。

そう言っていないとやってられない気分なのだろう。

 

ニャー。

すると、どこからか猫の鳴き声がした。

ルイは手を止め、足を止め、考えることもやめて、あたりを見渡す。

 

幻聴かしら。猫の手も借りたい、だなんて普段言わないことを言ったから。

ルイはもう一度あたりを見渡す。

 

いた。

ニャーと鳴く白い猫と目が合った。

 

ルイは猫に近づく。

首輪をしているが、このあたりで見かけたことはない。

 

どうしたの?

ルイは膝を曲げて猫に話しかける。

 

手伝いに来てくれたの?

 

ニャー。

猫はルイに寄り添う。

 

かわいいわね。

ルイは猫の手をやさしく握る。

 

ニャー。

 

ああ、気持ちいい。なんで猫の手ってこんなに気持ちいいのかしら。

 

ぷにぷに。もみもみ。

ニャー。

 

ああ、癒される。

 

いつの間にか。

束の間か。

 

ルイは忙しさを忘れていた。

 

猫の手も借りたい、ってこういうことだったのね。

 

ルイがそう言いながら笑うと、猫はニャーと鳴いた。