雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

夢の中にいる人は誰しも美しい。

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穴を掘っている人がいる。

毎日、毎日、穴を掘っている。

 

なにか埋めるんですか?

気になって我慢できなくなり、その人に訊いた。

 

いいえ。なにも埋めませんよ。

その人は言った。

 

相当な量のゴミを埋めるのか、それとも人を埋めるのか。

怪しげな行動をするその人を見て、そんなことが頭をよぎったが違った。

 

どこまで掘るんですか?

見えないほどに深く掘っているその人に訊いた。

 

いけるところまで、です。

その人は言った。

 

なにか出てきたことはあるんですか?

 

いろいろありますよ。化石も温泉も石油も、そして死体も。

 

えっ?

 

まあ、私には関係のないことですが。

 

えっ?

 

化石は専門の方に差し上げましたし、温泉も石油も。死体はさすがに警察に届けましたがね。

その人は笑いながら言う。

 

そうなんですね…。死体はあれですけど、温泉や石油はなんかもったいないですね。

 

私はそれが目的ではありませんから。

その人は穴を掘り続けながら言う。

 

理解できない。

もったいない。

なんのために穴を掘っているのだろう。

 

どうして穴を掘るんですか?

その人に訊いた。

 

ただの好奇心ですよ。

 

楽しいんですか?

 

楽しいですよ。

その人は本当に楽しそうに笑う。

 

理解はできない。

共感もできない。                                          

 

ただ、一生懸命に穴を掘り続けるその人は。

とても美しく見えた。