塩強めの塩おにぎりが一番好き。
味つけが濃すぎるとからだに悪いわよ。
君は眉間にしわを寄せる。
こっちのほうがおいしいから。
ぼくがそう言うと、君はすぐに目を逸らす。
いくつも調味料を並べているわけではない。
そんなときもあるけれど、基本的には調味料ひとつ。
それでもかけ過ぎたら、元々の味がわからなくなるでしょ?
君は喉を動かす。
そんなことないよ。多少の調整だよ。
ぼくは調味料に手を伸ばす。
君とごはんを食べるのは、少し苦手。
いつだって、なにか言われるから。
君にそういうつもりがないとしても。
ぼくのすべてを否定されているように思えるんだ。
ぼくは君の味つけになにも言ったことがないでしょ?
そんなこと、君には言えない。
それを言ってしまったら、きっと君はぼくと同じ気持ちになるから。
君が言っていることは理解している。
それでも嗜好というか、好みというか、習慣というか、思考というか。
そういったところは、きっと分かち合えないのだと思う。
素材があってこその調味料。
主役ではなく脇役。
でもときには脇役が主役になったっていいだろ?
じゃないと、脇役は報われないよ。
味つけが濃すぎるの。
君はぼくに言う。
ぼくから言わせれば君もなかなか濃い味つけ。
君がぼくのからだを心配してくれることはうれしい。
その気持ちは忘れずにいたい。
でも君もわかっているはず。
ぼくのためだけじゃなく、君のためも多分に含まれていることを。
この習慣はやめられない。
この瞬間がたまらない。
趣味は生きていく上での調味料にすぎないのよ。
君はぼくに言う。
あなたは味つけが濃すぎるの。
君はぼくに言う。
からだに悪いから。やめてとは言わないけど少し控えてほしい。
君はぼくに言う。
ぼくはいつだって上の空。
ぼくの返事はいつだって空っぽ。
そんな自分にぼくは気づいている。
だから、君に言われるたび思う。
少し味つけを薄くしようかと。
少し控えめにしようかと。
それでも。
この習慣はやめられない。
この瞬間がたまらない。
味つけが濃くなりすぎて。
君の姿が見えなくなってくる。
きっとぼくはいつか後悔するのだろうね。
味つけが濃すぎると、からだに悪いから。
味つけが濃すぎると、君に悪いから。