雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

ひそひそ話は風に乗る。

f:id:touou:20190914204917j:plain

 

ひそひそ話が聞こえてくる。

私に言っているわけじゃないのに、聞こえてくる。

 

ナカムラさんとアイザワさん、付き合ってるんだって。

ふうん。

 

前から噂になってたもんね。

ふうん。

 

スズキさんとキクチさん、別れたらしいよ。

ふうん。

 

長いこと付き合っていたのにね。

ふうん。

 

原因は浮気らしいよ。

ふうん。

 

マツダ部長とオガタさん、不倫しているらしいよ。

ふうん。

 

部長ってオガタさんのこと贔屓してるもんね。

ふうん。

 

だからオガタさんとノムラさんって仲悪いんだって。

ふうん。

 

ひそひそ話が聞こえてくる。

私に言っているわけじゃないのに。

ひそひそ、じゃあ全然ない。

 

ほかの誰かがひそひそ話をしてくる。

今度は私に。

 

ねえ。夏終わったんだって。

 

えっ?やっぱり?そう思ってたんだよ。もう寝るときエアコンつけてないし。

 

秋が訪れたらしいよ。

 

本当?実は私…。朝晩はもう長袖着てるの。

 

本当に?私も!このことは誰にも言ったらダメだよ。

 

わかった。

 

きっと私たちのひそひそ話は誰かが聞いている。

誰かに聞こえている。

 

私たちだけの秘密。

 

そんな重たい荷物を持ち続けることなど、できないから。

そこらじゅうから、ひそひそ話が聞こえてくる。

 

ひんやりした風に乗って、聞こえてくる。