雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

それぞれにそれぞれの役割がある。

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君はいいね。親指さん。

 

どうして?

 

君ひとり立っただけで、他の人に、いいね、とか、グッド、とか伝えられるから。

 

そう?上に立てればいいけど、下に向けると大事になるけどね。

 

君はいいね。人差し指さん。

 

どうして?

 

君ひとり立っただけで他の人に方向を示したり、口の前に立っただけで静かにさせたりできるから。

 

そう?なんだか偉そう、って言われることもあるけどね。

 

君はいいね。中指さん。

 

どうして?

 

君はいちばん長くて、なにかと便利だから。

 

そう?親指さんとか人差し指さんとかと褒め方がちょっと違う気がするけど。まあ、いいか。長いけど、そのぶん、いろんなところにぶつけたりしやすいけどね。

 

君はいいね。小指さん。

 

どうして?

 

君ひとり立っただけで性別を表現できるし、いちばん小さいから細かいところを突っつくとき重宝されるから。

 

そう?でもどっちもやりすぎると、親父くさい、って言われちゃうけどね。

 

みんないいな。それぞれ役割があって。意味があって。

薬指は言う。

 

自分は特になにもなくて。ひとりで立つことなんてほとんどなくて。なのに、扱いが難しい、なんて言われて。

 

大丈夫だよ。

心配しなくていいよ。

親指さんと人差し指さんと中指さんと小指さんが声をかけてくれる。

 

みんなひとりでは、指一本ではやれることは限られている。

でも、みんなで立てばなんだって掴むことができる。

 

みんなで立って手を差し出せば。

誰とだって握手して、誰とだってつながることができるんだから。

 

薬指はそれを聞いて、ぎこちなく頷いた。