食べたくなるものは大体決まっている。
見て。新商品だって。
ミオはファミレスのまわりで揺れる、のぼりを指差す。
本当だ。季節ものだな。
レイジはのぼりの文字を口に出さずに読む。
おいしそう。
野菜好きのミオは、のぼりに描かれた写真を見つめる。
そう?
野菜嫌いのレイジは、のぼりからすぐに目をそらす。
今が旬の野菜をたっぷり使ったメニュー。
色とりどりの色彩。
ヘルシーな一品。
ミオは新商品が好きだからな。ミーハーなんだよ。
レイジが新商品に惹かれる要素はひとつもなかった。
好奇心旺盛、と言って。レイジはいつも同じものばかり、気に入ったものばかり食べるでしょ?冒険心がないのよ。
ブレない、と言ってほしいな。確固たるものがあるって。
なによ、それ。
ミオは笑う。
ねえ、これ食べていこうよ。おなか空いたし。
ミオはまだのぼりを見つめている。
えーっ?
レイジは眉間にしわを寄せる。
私はこれを食べるけど、他にもたくさんメニューあるからレイジも大丈夫。ね?
えーっ?俺、ほかのものが食べたい。
なに?
ミオが作ったカレー。
えーっ?このあいだも食べたでしょ?
それでも食べたい。
えーっ?今から帰って作るの、面倒くさいんだけど。
お願い。俺、ブレない男だから。
冒険心がないだけでしょ。
ミオのカレー、うまいから。ずっと食える。
…じゃあ、スーパー寄らなくちゃ。
サンキュー。ミオの好きな野菜も買おう。
カレーに入れてもいい?
ダメ。別で食べて。
カレーばっかり。そのうち飽きるわよ。
大丈夫。俺、ブレないから。
どうだか。言っておくけど私は、ミーハー、だからね。
レイジはなにも返さず、笑っているミオの手を握った。