雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

平行じゃない限りいつか交わる。

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信号待ちの斜め上を横切る高架。

列車が光りながら走っていく。

 

駅から出てすぐだからか、速度はゆっくり。

列車の中に見える人々は皆、うつむいている。

 

斜めに射し込む陽が、くたびれた人々を照らす。

誰も気にしていないようだ。

スポットライトを照らされているようなのに。

誰も気づいていないようだ。

 

列車は流れていく。

たくさんの人々を揺らし、音をたてて。

 

その様子を眺めていると、一人の女性と目が合った。

そんな気がした。

 

彼女はほかの人々とは違い、窓の外をじっと眺めている。

すべてを見るように。

すべてを聞くように。

 

はっきりとは見えなかったけれど、美人。

そんな気がした。

 

それでも彼女はすぐに見えなくなった。

列車はビルの合間を避けるように消えていった。

 

顔ははっきり見えなかったのに、彼女の残像ははっきり残っている。

 

信号が青に変わった。

 

彼女の姿を何度も思い浮かべる。

 

彼女が乗っていた列車は、俺の住む町へと向かう。

アクセルを踏み込み、ゆっくり進む。

 

また会うかもしれない。

 

はっきり顔を見たわけではないのに。

 

そんな気がした。