無名も悪名も同じ町にいる。
町を歩けばいろんな花が咲いている。
思ったよりも咲いている。
きっとみんな花が好き。
だからみんな花を植えるんだ。
君もそうだろ?
きれいね。
君は色とりどりの花を見て言う。
赤も黄も橙も紫も白も。
何て言う花なのだろう。
俺はどれも名前を知らない。
桜と桃は微妙だし。
ガーベラなんて君の口からしか聞いたことしかない。
でも、アジサイとチューリップは確実にわかる。
君にバレないように。
俺は、そうだね、と頷く。
前を歩く君。
うしろで俺はこっそりと。
君にバレないように。
町を歩けばいろんな花が咲いている。
思ったよりも咲いている。
名前を知らない、きれいな花たち。
ごめんね、と言いながらむしり取る。
手のひらいっぱいにして、君にあげるため。
君にはバレないように。
きっと怒られるから。
悪いことだって、わかっている。
でも、今日だけ。
ごめんよ、花たち。
一生懸命咲いたのに。
俺はどこまでも悪い奴。
なのに、君を喜ばせようとしている。
ごめんよ、花たち。
名前すら、言えなくて。