閉まったものは開ければいい。
シャッター全部閉まってるね。もう閉店の時間なのかな?
斜めに注ぐ陽射しを時折浴びながら、アーケードの下を歩くサユリは冗談っぽく言う。
そんな訳ないだろ。
カズキは少しムッとして答える。
そんなに怒んないでよ。
怒ってねえよ。
明らかに怒ったカズキを見て、サユリは笑う。
ごめん。悪気はないの。別にあなたの故郷をバカにしたんじゃないから。
カズキの腕に絡まりながら、サユリは胸を押し当てる。
やめろって。荷物が重たいんだから。
カズキはそう言いながら、腕を振りほどこうとはしない。
本当に来ちゃったね。
サユリは腕に絡みついたまま言う。
ああ、そうだな。
ふたりはシャッターばかりの商店街を歩く。
ガラガラガラ…、とカズキが引くスーツケースの転がる音が響く。
すごい響くね。
サユリはうしろを振り返る。
こんなに寂れちゃったか…。
カズキはため息と一緒に言う。
大丈夫かな?
サユリは胸を強く押し当てる。
大丈夫!
カズキはサユリに顔を近づける。
ちょっと!
サユリは仰け反る。
大丈夫。誰もいないから。
ふたりの声がこだまする。
どこかのシャッターが小さく震えた音がした。
カズキはあたりを見渡す。
誰もいないはずなのに、誰かを探すように。
ガラガラガラ…。
スーツケースの転がる音が響く。
大丈夫。
サユリに聞こえないよう心の中で呟き、もう一度サユリに顔を近づけた。