いくつになっても高校生は高校生。
しっかり捕ってよ。
落ち着いて…。
母が叫ぶ。
ほらーっ。
言わんこっちゃない。
母が天を仰ぐ。
縁もゆかりもない県同士の高校野球。
母は冷房の効いた部屋で観ているだけなのに、汗をかいている。
うるさいな。
私はグラスに麦茶を入れる。
だって心配じゃない。せっかくここまで来たのに…。
母は頭を反り返して、うしろにいる私を見る。
心配しなくても、ここでやっている人全員、お母さんより上手だから。
でも、さっきエラーしたでしょ?
そりゃ、するときもあるよ。
まだ、この子たちは高校生よ。大人びて見えても、プロじゃないんだから。
プロじゃないけど、プロ予備軍だよ。ミスした理由はきっと自分が一番わかってるはず。
カキーン!
画面から金属音が響く。
しっかり…。落ち着いて。
母は手を合わせる。
さっきと同じような打球がショートの前へ。
ショートは心なしか、さっきより丁寧に捕り、ファーストへ投げた。
ああ、よかった。
母は天を仰ぐ。
ねえ、疲れないの?
私は麦茶を飲み干す。
疲れるわよ!
母はなぜか威張って言う。
まだ2回じゃない。こんなんで最後までもつの?
頑張るわよ!
母は冷蔵庫から麦茶を取り出す。
まあ、頑張って。あと3試合あるけど。
私は部屋から出て行く。
ああっー!
母の金切り声が聞こえる。
金属バットよりも甲高い音が。
外ではセミがまだ鳴いている。