雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

何を言われるかより誰に言われるか。

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ゴンゾウという男がいた。

 

この男、どこまでも己の欲望に素直。

自由奔放というか。

自己中心的というか。

自堕落というか。

 

好きなものを好きなだけ食べ。

好きなときに好きなだけ寝て。

人との約束や予定はいつだってその時の気分次第。

 

嫌なものは嫌。

好きな道だけ選んで歩いている。

 

だって自分の人生だから。

 

ゴンゾウの口癖。

 

自分のために生きている。

優先順位はいつだって自分が最上位。

 

誰に何と言われようが、ゴンゾウの心は揺れることすらない。

 

バランス良く食べなくちゃ。

規則正しい生活をしなくちゃ。

約束はしっかり守らなくちゃ。

 

いろんな人から同じようなことをたくさん言われた。

 

それでも、長年かけて染みついたゴンゾウの思考が変わることはない。

 

好きなことを好きなだけ。

それなら、明日死んだって構わない。

少しの悔いもない。

 

そんな生活が続いたある日。

 

あなたのからだが心配。

ある女が言った。

 

それまで誰の言葉にも心が揺らぐことのなかったゴンゾウ

不思議なことに、彼女の言葉だけは心に突き刺さった。

 

わかった。

ゴンゾウは頷き、女を抱きしめた。

 

それからのゴンゾウは別人のようになった。

バランス良く食事をし。

規則正しい生活を送り。

約束はしっかり守る。

 

人を気遣い、優先順位は変わった。

 

自分より大切なもの。

ゴンゾウははじめて知った。

 

女は言う。

もう少し一緒にいたいの。

 

ゴンゾウは女をきつく抱きしめる。

 

ゴンゾウははじめて心に思った。

 

もう少し長く生きたい、と。