火花は消えても記憶は残る。
今日は花火大会。
毎年欠かさずあなたと見に行った。
このあたりでは有名な花火大会。
大きな打ち上げ花火がいくつも上がる。
いつだってたくさんの人がやってくる。
人混みが苦手なあなただけど、この花火大会だけは必ず一緒に行ってくれた。
小さいころからずっと見ているから。
あなたは照れ臭そうに、そう言った。
いろんな花火大会に行ったことがあるけれど、あなたが生まれ育ったこの町の花火大会が一番好き。
そう言うと、あなたは照れ臭そうに、ふうん、と呟いた。
毎年行っているこの花火大会。
いろんな場所から、いろんな花火を見た。
どれもちゃんと覚えている。
でも、ふたりともすぐに屋台に夢中になった。
あれもこれもといろいろ物色。
行ったことのない屋台はないほどに。
それでも花火はちゃんと覚えている。
本当だよ。
いろんな角度でいろんな花火を見た。
いろんな角度でいろんなあなたを見た。
すべて覚えている。
でも一度も浴衣を着てくれることはなかった。
きっと似合うのに。
私がそう言うたびに、あなたは照れ臭そうにどこか遠くを見た。
今年は一緒に見られない。
だけど悲しくなんてない。
先に行って、見ていて。
まだ私が見たことのない角度から。
上から見る打ち上げ花火はどういう風に見えるのか教えて。
近いうちに私もそっちに行くから。
また一緒に花火を見よう。
次こそは浴衣を着て。