雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

過程も査定に入れてほしい。

f:id:touou:20190726212534j:plain

 

どれだけ力を入れても開かない。

 

君が持ってきた瓶。

君が持ってきた瓶のふたが開かない。

 

これ開けてもらっていい?硬くて…。

君がそう言ったら、男としての魅せどころ。

 

しょうがないな感を出して、瓶を受け取る。

 

そこまではよかったけれど。

 

ある程度の余裕を持ってふたを開けようとするが、すぐに余裕がなくなる。

 

おかしいと思ったよ。

瓶のふたを、ひとひねりした時点で、これはちょっと、って思ったよ。

 

これは硬い。

 

君に気づかれたくなかったから。

かっこ悪いところを見せたくなかったから。

 

ふたひねり目からは、全力を出した。

 

でも、開かないんだ。

これは硬すぎる。

 

君の目を見ることができない。

これは自力では無理だと判断したけれど、諦めるわけにはいかない。

 

濡れたタオルをふたにかぶせて滑らないように。

温めたらいいと聞いたことがあるから温める。

瓶の逆さまにして底をポンポンと叩く。

 

知っている限りの方法を試す。

それでも、どうにもこうにもふたは開かない。

 

もういいよ。ありがとう。

君は切ない声と一緒に手を差し出す。

 

でも、これ使うんでしょ?

俺は瓶のふたをコツコツ叩く。

 

うん、まあ、今日はもういいよ。

君は俺から瓶を奪い取る。

 

そう言えば、その瓶って何なの?

ラベルには英語なのか何なのか書かれているけれど読めない。

 

君は濡れたタオルを瓶にかぶせる。

最後のあがきで力を入れる。

 

それ、何の瓶?

 

あっ!開いた!

君は大きな声を出す。

 

おおっ!

俺も大きな声を出す。

この感情は、自分でもよくわからない。

 

よかった。

君はうれしそうに瓶を持っていく。

 

ねえ、それ何の瓶?

 

答えはない。

俺の声が届いていないのだろう。

 

今の俺の存在は、ないも同然だから。