雑文記【ひびろぐ】

いつだって私たちの手のひらには物語がある。

じゃんけんに必死になれる人が好き。

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じゃんけんに負けたからって泣かなくてもいいんだよ。

父は子に言う。

 

じゃんけんは理不尽だから。

子は目にうっすら涙を浮かべて父の言葉を聞いている。

 

みんないろんな手を使って勝とうとするんだ。いろんな駆け引きもする。でも、必勝法なんてないことは覚えていて。

父はこの両手を握る。

 

じゃんけんは奥が深そうに思えるし、理不尽だけど、公平なんだ。

子は袖で涙を拭く。

 

誰だって勝てるし、誰だって負ける。引き分けはあるけど、いつか必ず決着がつく。だからみんな必死で勝とうとしてるんだ。だからみんな勝つし、みんな負ける。

父は子の頭を撫でる。

 

負けてもいい。次、勝てばいい。次負けたら、その次勝てばいい。

父の言葉に子は大きく頷いた。

 

じゃあ、もう一回やるか?

父は膝を曲げて、子の顔の前に自分の顔をやる。

 

うん!

子はもう一度、袖で目をこする。

 

じゃんけん…。

子は鋭い目つきで大きく振りかぶる。

 

ぽんっ!!

 

 

 

やったー!!

子は出したパーのまま、手を叩く。

 

くそーっ!

父は出したグーのまま、袖で涙を拭うフリをする。

 

一発目に必ずパーを出す子は、手をパーに開いたまま万歳をする。

 

父は袖の隙間から子をチラリと見て、笑った。