はたかれた方が痛いに決まっている。
パンパン。
頬をはたく。
パンパン。
頬をはたかれる。
パンパン。
往復ではたかれる。
パンパン。
暴力ではない。
体罰でもない。
早く起きて。
サユリが言う。
ショウタの頬をはたきながら。
パンパン。
早く目を覚まして。
少しずつ確実に、頬をはたく力が強くなる。
うーん…。
ショウタは目をうっすらと開ける。
寝ぼけているのか、まだ痛みを感じていないようだ。
パンパン。
サユリはショウタの頬をはたき続ける。
いつまでも夢の中にいるショウタをこっち側に戻すために。
むにゃむにゃむにゃ…。
ショウタがなにやら言っている。
サユリは聞き取れない。
いつもの寝言、戯れ言だ。
寝言は寝て言え。
寝ても言うな。
サユリは頬をはたき続ける。
目を覚まして!
わかったよ…。
ショウタは言う。
それでもサユリは手を止めない。
わかったと言いながら、なにもわかっていないから。
夢見ることは悪いことではない。
サユリは思う。
けれどショウタは少し違う。
夢の中で夢を見て、起きても夢の中にいる。
早くちゃんとしてほしい。
早く現実を見てほしい。
サユリはショウタの頬をはたき続ける。
パンパン。
パンパン。
目を開けているのに、目の前にいる私を見ていない。
サユリはいつだってショウタに言う。
夢ばかり見ていて、私を見ていない。
わかったよ。
ショウタはいつだってそう言う。
パンパン。
パンパン。
サユリはショウタの頬をはたく。
暴力でも体罰でもない。
わかってる、と言うショウタは、きっとまだわかってないから。
はたかれる方も痛いけど。
はたく方も痛いのよ。
早く目を覚まして。
早く私を見て。
ちゃんと私を見て。
サユリは願いを込めて、頬をはたく。