思い出は過去ばかりではない。
ただいま。
両手に袋を持ったレイコがドアを開ける。
袋をテーブルに置くと、袋から写真と額縁を取り出した。
また買ったの?
ヒラナリは読みかけの雑誌を閉じる。
うん。
鼻歌まじりにレイコは写真を額縁に入れていく。
今度はいつの?
ヒラナリはレイコへと近づく。
先週出かけたときのと、このあいだ家で撮ったやつ。
家で?
うん!あの子のすごくいい顔撮れたんだ。ほら。
レイコは何枚もある写真の中から一枚を取り出す。
たしかに。
ヒラナリは小さく頷く。
ねえ?そうでしょ?
レイコは次々と写真を額縁へと入れていく。
まあ、そうだけど。それにしても…。ちょっとやりすぎじゃない?
ヒラナリは部屋を見渡す。
家族写真やあの子の写真があちこちに飾られた部屋を。
そう?
写真を飾るのはいいんだけど。これだけあったら、なんて言うか、過去に縛られているみたいで…。
ヒラナリは飾られた写真を一枚一枚覗き込む。
たしかにいい写真だよ。そのときのことを思い出せるし。でも…。
ヒラナリの声は細くなっていく。
過去ばかり見ていたらダメ!
話を遮るようにレイコは強い口調で言う。
これは過去のためじゃない。未来のために飾ってるの!こういうときを過ごして今の私たちがあって、これから私たちがどうなっていくのか。
レイコの口調は強くなるばかり。
ほら見て。まだこんなにスペースが残っているわ。このスペースには私たちの未来が飾られる。ひとつひとつスペースを埋めていくことが、私たちの未来なの。
レイコは両手を広げる。
……。
ヒラナリはなにも言えない。
わかったような、わからないような。いや、わからない。
じゃあ、スペースが埋まったら未来がなくなるよ?
ヒラナリの精一杯の反抗。
じゃあスペースが埋まったら、もっと大きな家に引っ越そう!
レイコは笑う。
えっ?
ヒラナリは笑えない。
頼りにしてるよ。おとうさん!
レイコは残った写真を額縁に入れていく。