夜がさみしいのに深い理由はない。
夜はさみしいから、今夜私の部屋に来てよ。
君は僕にそんなことを言う。
深い意味はないよ。
君は続けて言う。
そうだよね。
僕は笑いながら言う。
滅多に感情を露わにしない君がそんなことを言うなんて、よっぽどのことがあったのだろう。
夜はさみしい。
それは僕も同じ気持ち。
どうしてさみしいのか。
君と僕とでは理由は違うだろうけど。
何時に行けばいいのか。
このまま向かっていいのか。
どうせなら。
なにも期待なんかしていないけど。
少し準備する時間が欲しい。
なにも持って行くものなんてないけど。
心の準備をする時間が欲しい。
深い意味はない。
持って行くものはあった。
手ぶらで行くのもなんだから。
酒を持って行こう。
君は酒が好きだから。
たくさん酒を買って行こう。
深い意味はない。
単に君が酒好きだから。
さみしいのなら話をしよう。
さみしさを紛らわせるように。
深い話なんてしなくていい。
どうでもいい話をしよう。
酒を飲みながら、くだらない話をして笑おう。
君の部屋に入った途端、緊張が増した。
君の部屋に行くまでも緊張してたけど、比にならない。
酒でも飲まなきゃ落ち着かない。
どうでもいい話をつまみに、酒を飲む。
君は僕より酒が強いから。
なにも気にせず酒を飲む。
深い意味はない。
緊張のせいか、いつもよりピッチが速い。
緊張のせいか、いつもより酔えない。
いつもならとっくに酔っ払うくらい飲んだのに。
今日に限ってまったく酔えない。
気づけば君は眠ってしまった。
寝息を立てる君はかわいい。
くだらない話をしていたせいか、君の寝顔は笑っているようだ。
眠ってしまえば、もうさみしくなんてないだろう。
寝ている君を見てホッとしたのか、少しずつ酔いが回ってきた。
このままここにいるのも変だから。
家に帰ることにするよ。
外は静かに沈んでいる。
外は深く沈んでいる。
気持ち悪くなってきた。
眠たくなってきた。
歩くのがしんどい。
振り返っても、君の部屋の明かりは消えたまま。
勝手に世界が回っていく。
やっぱり夜はさみしい。
そこに深い意味は、ない。