自動販売機がある本当の理由。
誰にだって誰とも話したくないときはある。
誰にだって誰とも会いたくないときはある。
私はひとりしかいないのに、他にはこんなにたくさん人がいるんだから。
誰とも話したくないのに。
誰とも会いたくないのに。
喉は乾く。
生きていれば、喉が渇く。
悔しいけれど、仕方がない。
部屋にはなにもない。
誰にも会いたくない気分のときは、飲み物を作る気分になんてなれないから。
コンビニにもスーパーにも行きたくない。
誰かと接しないといけないから。
自動販売機を探す。
誰とも話さず、飲み物を買える。
誰にも会わず、乾いた喉が潤う。
私の欲望をふたつ同時に満たしてくれる、魔法の箱。
なんて便利な時代に生まれたのだろう。
暗く沈んだ町を歩く。
灯は数えるほど。
音も数えるほど。
どれだけ歩いたのか。
魔法の箱は、なかなか見つからない。
あっちにあるのは知っているけれど、あっちには人影が見えた。
そっちにあるのは知っているけれど、そっちから音が聞こえた。
誰にも会わないように。
どれだけ歩いたのか。
喉が余計に乾く。
いつもなら、そこらじゅうにあるのに。
こういうときに限って見つからない。
こんな便利な時代なのに。
財布片手に歩き回る。
暗くて静かな町を歩き回る。
いつもこんなだったらいいな、と頭の片隅で思う。
そんな都合の良い世界なんて、と頭の反対側で思う。
あっちに行きたいけれど、あっちには人がいる。
そっちに行きたいけれど、そっちから音がする。
思い通りにはいかない。
そんなことはわかっている。
自動販売機がなかなか見つからない。
そんなに都合良くない。
そんなことはわかっている。
でも明日になれば、きっと大丈夫。
だから今だけは自動販売機を必死に探す。
まわりに誰もいないことを確認して、ひとりごとを呟きながら。